緑川源流黒岩谷と森の霊気

緑川源流(山都町)黒岩谷は、幾度となく沢登りで訪れた思い出の谷である。谷の名は沢を詰め上がった岩峰黒岩(標高1582m)からついたとされる。
ヤマメ釣りは初体験という知人と舞岳(まいたけ)集落の山の神に安全祈願をしてから、国有林内を進んだ。緑川源流域は、戦後の大官山林道の開削によって急激に森林開発が進んだ。「大官山」とは、「広大な国有林」という意味である。大官山林道最奥の集落となった舞岳の山の神も、山仕事の安全を願って設けられたものである。

大官山舞岳の山の神様

梅雨明けの大官山林道は、落石もあり荒れ気味である。緑川の最源流に近づくにつれて、スギ・ヒノキの植林地から自然林へと変化する。緑一色の林道沿いでは、リョウブとノリウツギの白い花が目立った。
入溪した黒岩谷は盛夏らしく濃緑のトンネルの中にあった。林道橋から左岸の踏み跡を辿り、砂防堰堤脇を越えて源頭を目指した。両岸はカツラやイヌシデ、フサザクラ、サワグルミ、チドリノキなどの落葉広葉樹で埋め尽くされる。木々に覆われて、空を仰ぎ見ることもできない。
しばらくは流木の溜まった平坦な流れとなるが、すぐに右岸から段々滝が合流し、その奥からはヤマメの潜む小淵が連続する。しかし、緑のボリュームに圧倒され、竿を出すのも忘れてしまう。ただ、森の霊気に触れ茫然と佇むだけである。

緑に覆われた黒岩谷源流

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