馬見原五ヶ瀬川と竿渡村ノ瀧

滝上(山都町馬見原)集落のはずれからジュラルミン製の梯子階段を下り切ると、巨岩が累々と重なる川岸に出た。巨岩帯を抜けると平坦な杉の植林地となり、川に沿って石垣が築かれている。植林地を抜けると、五ヶ瀬川の川岸である。点々と横たわる大岩の間を抜けて上流へ向かうと、正面に竿渡(さわたり)滝の姿が見えた。容易に人が近づけない幻の滝である。
滝壺は巨大な円形だが、せせらぎの音がどこからも響いて来ないのは、水の動きがほとんど見られないためである。巨大な岩壁に取り囲まれたすり鉢状の空間を冬枯れの樹林帯が取り囲み、滝壺には落ち葉が漂っている。

静寂の中の竿渡村ノ滝

竿渡滝は、細川藩8代藩主細川斉茲(なりしげ)公のお抱え絵師、矢野良勝と衛藤良行が描いた『領内名勝図巻』に「竿渡村ノ瀧」として登場する。図巻では「高さ十六間半 幅三間程 瀧坪三反余」とされ、水量豊かに描かれている。現在は上流の馬見原に発電用の取水堰堤が設けられているため、流れ落ちる滝水の幅は、図巻と比べるとかなり狭く、水量も少なくなっている。

馬見原の旭化成取水堰堤

「竿渡」の名は、滝壺からの流れが竿をさして渡れるほどゆるやかだからとされる。確かに、図巻には竿で川底を探りながら渡る人の姿が描かれている。
地元で滝のことを尋ねると「昔は滝壺の対岸に1軒だけ人家があった。川岸の石垣は水田の跡だ」と教えてくれた。
梯子階段を登り馬見原まで戻った。馬見原橋を渡ると、曇り空の下で五ヶ瀬川のせせらぎの音がかすかに響いてきた。

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