回想久木野川と涙の別れ石

「6月から9月は、ウナギテゴや竹竿の仕掛けでウナギをとっていた。10月になるとカワガニもとれた」。今から50年以上も昔、水俣市久木野で少年時代を過ごした知人の回想である。
梅雨期に入ると、水俣市久木野の雑貨店の店先には、竹製のウナギテゴがぶら下げられた。子どもたちは小遣い銭を貯めてウナギテゴを買い、久木野川の浅瀬で仕掛けた。小枝やコケでウナギテゴを覆い、入口を下流側に向けておくと、水俣川河口から上ってきたウナギが入り込む。

前日の大雨で増水した久木野川

「夕方のまだ明るいころに仕掛ける。翌朝になって引き上げると、ずしりと重く、中でウナギがゴソゴソと動き回るのがわかる」という。一つのウナギテゴにウナギが10匹も入っていたこともあった。
竹竿の仕掛けでもウナギがよく捕れた。長さ1、2mほどの細竹を10本ほど用意する。「弾力性のある竹でないとだめ。1mほどの糸の先端の針に餌をつけ、川岸に固定して水中に餌を垂らす。餌はカエルかハエ(ハヤ)のぶつ切り」。簡単な仕掛けでもウナギが獲れた。
「カワガニの隠れているところは、水中を見るとわかる。石の間から砂を掻きだした跡があれば、そこにいる証拠。実のついた稲穂を穴に差し込むと中でカワガニが実をかじる手応えがある。そのまま少しずつ穴から引き出して姿が見えたらさっと手でつかむ」という。
久木野川を訪れた日、支流の寒川(さむかわ)川上流の「涙の別れ石」まで上った。「昔、大川の村から尾根越えで寒川の娘さんのもとまで通っていた若い衆が、思いを遂げることができなく涙を流して別れた場所」だという。「涙の別れ石」にたどり着いたころには、午前中曇天だった空が青色に変わっていた。

寒川川上流の森の中に残る「涙の別れ石」

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