佐敷川と塩浸の山太郎漁

芦北町中心地と球磨村を結ぶ県道27号から、大関山(標高902m)方面へ向かう県道270号へ入る。塩浸(しおひたし)で県道と別れ、農道を伝い佐敷川の流れ際まで降りてみた。

塩浸の佐敷川

川岸まで出るとモクズガニ捕獲用の籠が転がっていた。鉄製の丸籠に竹の「ウケ」を組み込んだ頑丈なものである。目の前の流れには、川を仕切った仕掛けが残されていた。下流に向かって丸石をV字形に並べ、先端に籠を置く仕組みである。
モクズガニは、全国的には「ツガネ」「ツガニ」「ヤマタロウ(山太郎)」などの地方名があるが、佐敷川では「山太郎」と呼ぶ。秋から冬にかけて、モクズガニは産卵のために海まで下るが、その時期を狙って、川を仕切った籠漁や魚の頭などを入れた籠を仕掛ける。
モクズガニは藻類を主なエサとしているが、カワニナやミミズ、小魚などの動物性のエサを食べることもある。塩浸で聞くと「ミミズを食べて大きくなった山太郎は、甲羅が10センチにもなる。今は、獲れるのはほとんどが5~6センチのものばかり。昔に比べると数も減った」という。

佐敷川に仕掛けられているカワガニウケ

モズクガニのカニみそは独特の濃厚な風味があり、昔から珍重されてきた。とくに卵巣の発達したメスが「うまい」とされる。塩浸では「うちでは塩と醤油で味付けして炊くが、味醂や味噌を加える人もいる」。
炊き方にもコツがある。「水から炊かないと甲羅や足が外れてしまい、食べにくくなる。じわじわと炊くのがいい」。地元では、「山太郎」を正月用に保存して食べることがあるというが、そんな習慣も年々失われようとしている。

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