椎葉谷川と落葉に埋もれたワサビ田

九州脊梁(中央山地)に点在する「椎葉」(しいば)の地名には、共通の意味があるのだろうか。耳川上流の宮崎県椎葉村が、最もよく知られているが、熊本県側においても、球磨川と川辺川に「椎葉」の地名が点在する。
球磨川本流では、球磨郡水上村小川内(おごうち)川最上流に椎葉の地名があり、川辺川流域では、球磨郡相良村椎葉とともに五木村平沢津谷上流の椎葉が知られている。さらに、川辺川を遡った五家荘(八代市泉町)には、椎原(しいばる)の地名が見られる。このほか宮崎県西都市の一ツ瀬川流域尾八重(おはえ)にも大椎葉(おおしいば)の地名が残る。「しい・ば」とは「しひる」という崩壊地や痩せ地を意味する言葉から来ているともされる。
10数年ぶりに訪れた相良村椎葉の風景は、さほど変わっていないように感じた。国道445号から分かれ、椎葉谷川沿いに上流へ向かうと椎葉集落である。集落で、地元で取り組んでいたワサビ栽培のことを聞いた。「5戸で組合をつくって、谷の上流にワサビ田を開いた。数年続けたが、大水で泥が流れ込んでワサビ田が埋ってしまい、今ではやめている」という。

自然林の中の椎葉谷川

記憶を頼りに、谷沿いの車道を上流へ辿ると、谷が急に狭まり、落葉樹混じりの照葉樹の森となる。上流へ向かうにつれて、両岸の傾斜が険しくなり、小滝が次々と現れる。谷の奥はやや広がり、そこにワサビ田の跡らしい石組が見えた。だが、青々としたワサビ葉に覆われていたワサビ田はすっかり落ち葉に埋まり、今では渓流の風景に融け込んでいた。

土砂に埋もれた椎葉谷のワサビ田

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