都々良川と大矢事業所の山の神

営林事業の拡大と「山の神」は結びついてきた。山林開発が山奥へ延びるにしたがって、「山の神」によって設定されていた境界線を越えて、人々が暮らすことになる。これによって、これまで開発の手が及ばなかったような奥山にも「山の神」が祀られた。
阿蘇南外輪山麓の大矢、緑川源流白岩集落、内大臣川内大臣集落、山出(やまいで)川千間(せんげん)集落、八勢(やせ)川吉無田(よしむた)集落などで、そのような「山の神」が見られる。
山都町大矢(現山都町)官山(国有林)で山林開発が始まったのは、昭和期になってからである。麓の稲生野(いねおの)から5㎞ほど奥地の東大矢に、矢部営林署大矢製品事業所が設けられ、作業員のための住宅が20軒ほど建ち並んだ。その事業所跡近くに「山の神」が祀られている。

大矢官山の入り口に祀られる山の神

稲生野から大矢官山に入り、都々良(つづら)川に架かる大矢橋を渡ると、林道は左に大きくカーブする。その右手の急斜面に「山の神」がある。大矢製品事業所で働く人たちが、官山での山仕事の安全を祈り祀ったものである。
林道からコンクリートの急な階段を登ると、露岩の下に石造りの祠が置かれている。その脇に2基の石灯籠が奉納されており、土台には「矢部営林署退職記念平成4年4月吉日建立」と彫られている。
大矢の「山の神」に手を合わせ、渓流まで下りてみた。春の日差しが川面に跳ね返り、目にまぶしい。雑木をかき分け川岸に出ると、対岸に大矢製品事業所の名残の石積みが残されていた。

渓流沿いに残る大矢事業所跡の石積み

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