残雪の満願寺川と隠れ切支丹

満願寺温泉の上流には棚田が続き、さらに川沿いに上ると雑木林に挟まれた溪谷となった。樹林が切れる源流域で、満願川は細流となり、原野の中に消える。
川沿いの自動車道を上流に向けて遡りながら、いくつかの集落でヤマメのことを尋ねた。「アブラメはいるがヤマメはいない」、「以前はヤマメを放流していたが、今は放流していないのでいないと思う」など、否定的な答えが多い。
それでもあきらめずに、いくつかの集落で話を聞くうち、「20年ほど昔のことだが、小学生だった息子がミミズを餌に鼻の曲がった大ヤマメを釣ってきた」、「ヤマメはいるはずだが、釣る人がいなくなった」と話す人も現れた。
自動車道から雑木林の急斜面を降り、満願寺川の川底まで出てみた。川沿いは、照葉樹と落葉広葉樹が混じった暗い林となっている。数日前に降った雪はほとんど消えていたが、陽光の差さない川岸に立つと冷気が足元から這い上がってくる。

落ち葉に覆われた満願寺川

渓谷は一枚岩に覆われ、その割れ目を縫って川水が流れる。両岸から落葉が谷底に降り落ち、川底の一枚岩を覆い尽くしている。
凍えないうちにと、自分の足跡をたどって斜面を登ると、落葉の中にユキワリイチゲがあった。ユキワリイチゲは、雪を割って花が咲く。花言葉は「幸せになる」とされている。だが、この時期は蕾がようやく顔をのぞかせているだけである。
満願寺川からの帰り、古老に教えられて「臼内切」(うすねぎり)まで山道をたどった。「臼内切」は、江戸期に切支丹弾圧を逃れ、満願寺川奥地に隠れ住んだ人たちの塚とされる。隠れ切支丹の人たちも、満願寺川でユキワリイチゲの花を見たのだろうか。

ユキワリイチゲの花

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