樅木川源流五勇谷と烏帽子谷

五家荘の烏帽子(えぼし)岳(標高1691.2m)に初めて登ったのは、30年ほど昔のことである。五勇(ごゆう)谷支流のモハチ谷から山頂にたどり着いた。
五勇谷は、川辺川の最上流である五家荘(八代市泉町)樅木(もみき)川の支流沢だが、いくつかの小さな沢を抱え、谷の奥は国見岳(標高1738.8m)、五勇山(標高1662m)、烏帽子岳をつなぐ尾根となる。五家荘と宮崎県椎葉村との境を成す脊梁(主稜線)である。

五勇谷の流れ。奥の砂防ダム上流でモハチ谷が合流する

30年前の記憶では、樅木川左岸の林道から、五勇谷への作業林道に入った。五勇谷右岸の作業林道をしばらく歩くと、モハチ谷の入口に木の吊り橋が架かっていた。山仕事の人たちのためにワイヤーと丸太で作られた簡易な吊り橋である。吊り橋を渡ると、沢沿いに踏み跡があり、急斜面を登るとすぐに自然林となった。
モハチ谷沿いに1時間ほど登ると、巨木が下流に向かって倒れていた。同行者が倒木の根元で腰を下ろし、宙を仰いだまま動かなくなった。もう一人の同行者が「以前来た時、彼はあの場所でリュックを下して休んだ。その時、リュックをうろ(空洞)に落とした。その時のことを思い出したのだろう」という。倒木には大きな空洞があり、手が届かない奥までリュックが滑り落ちたらしい。
烏帽子岳山頂北面にはツクシシャクナゲの大群落があり、その日は薄紅色の花が点々と咲いていたが、そのことよりも倒木での出来事が鮮明に記憶に残った。
それから数年後、今度は烏帽子谷を遡上して烏帽子岳の山頂を目指した。烏帽子谷は山頂までの遡行距離が思った以上に長く、上部にはスズタケが密生していた。結局、スズタケと格闘することに時間と体力を使い果たし、山頂には辿り着けなかった。途中で撤退したせいか、烏帽子谷での記憶は残っていない。

烏帽子谷。奥に谷を渡る樅木林道の橋が見える

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